レッド・アトラスと熱海線 考察編

ソ連製地図

こんにちは、銀ふくろうです。
まずはソ連製地図シリーズ東海道線旧線編最終回(今名付けました)として、前回発覚した
『トンネル駅、根府川事件』の考察の前に、筆者が今まで大変な勘違いをしていたという話をしていきたいと思っています。
本編初回、2回目をご覧になってない方は、以下に貼りましたリンクから御覧ください。
初回【調査編】はこちら
さてまず調査内容が如何ようか、ということからおさらいしていきましょう。


つまるところ、本事件は1970年頃に作成されたと見られるソビエト連邦の軍用地図(以下ソ連地図と表記します。)において、根府川駅がトンネル内に表記されているというものでした。つまり事件名の通りです。
現代の地図とも比較、つまり机上調査編にてわかっていたのは以下の通りです。
・ソ連地図は1972年まで現役であった東海道線旧線区間である。
・現在の地図、ソ連地図共に根府川駅の位置は一致している。
・真鶴駅も一致している。
・ソ連地図に描かれている数は3つである。
・ソ連地図に表記されているトンネルの形は真鶴側からみた場合、
一番南のトンネル:ほぼ直線  真ん中:ほぼ直線  一番北のトンネル:右へカーブ
となっている。
そして実地調査でのトンネルの形を思い返してみると、
長坂山隧道:ほぼ直線

八本松隧道:やや左へカーブ

赤沢隧道:右へカーブ

といった感じでした。


それで何を間違えていたかということですが、
おそらく先の「一番北のトンネル」という表記にお気づきの方もいらっしゃると思われますが、真ん中と一番北のトンネルは現役のトンネルだったのです。このふたつのトンネルを、南から順に江の浦トンネルと寒ノ目山トンネルと言います。
この2つのトンネルは旧線時代から使われていました。
つまり根府川真鶴間のトンネルは、
旧線時代が5つ、新線時代が3つということになります。


前回私が「赤沢隧道が根府川駅に突っ込んでいる」と言っていたのは実は「寒ノ目山トンネルが突っ込んでいる」ということになります。
大変な勘違いをしていたことをここでお詫び申し上げます。


ではソ連地図で一番真鶴側にあるトンネルは真鶴トンネルではないかということなのですが、これはそうであってそうではないようです。
まず名前としては正しく、地図の部分にキリル文字で「トンネル:マナヅルトンネル」と書いてありました。おまけにひとつ上には江の浦トンネルの名前もあります。…やらかしちゃってますね。
それで何がそうでないのだ往生際が悪いとお思いかもしれませんが、まずはこちらの新線の地図をご覧下さい。

これは国土地理院が作成している現在の地図です。左側の路線の一番下の点線部分が真鶴トンネルですが、ソ連地図の一番下の点線部分と長さが全く異なり「真鶴道」という緑文字があるやや出っ張った部分でトンネルが終わることなく、引っ込んだ部分の上方で終わっています。
またこの地図での真鶴トンネルは大きく弓なりになっているのに対し、ソ連地図は長坂山隧道のようにほぼ直線状に書き込まれているのです。
とすると、
ソ連地図に「真鶴トンネル」として描いているトンネルは実は長坂山隧道だったわけです
これはどういうことなのでしょうか。


次に気になったのは果たしてソ連製地図(縮尺十万分の1)が、
1.短い鉄道トンネル(100m以下)は元々表記しないのか
2.洞門(赤沢隧道のような)は表記しないのか
といった2点でした。
もし1,2の説が成り立つならば制度上切り捨てていたことになりますが、
成り立たないとしたならば結構いい加減な感じで描かれていた可能性も考えられます。


まず1についてですが、縮尺が十万分の一の場合、100mは1mmで地図に表記されます。まあするわけないだろう、と言って片付けたかったのですが、トンネルが端折られていない様子が足尾線(現わたらせ渓谷鐵道)の間藤~足尾本山間で見つかりました。

間藤~本山間にはトンネルが2つあり、1つは川を越えてすぐにあり、もう一つは本山の直前にあります。二本目のトンネル実際に行ったことがあり(詳しくは『足尾町と国鉄足尾線』を御覧ください)は以下の写真の通りかなり短いものです。

また日本が発行している地図でも同様の地図が真鶴の区間でも五万分の一の縮尺で描かれていました。ソ連の地図の方では縮尺の大きい地図ということもあり、短いトンネルはあまり丁寧に描かなかったのかもしれません。

(『今昔マップon the web』より)

こちらがその地図ですが、赤沢隧道の方は覆道としてしっかり記入されていました。また長坂山隧道はソ連地図と同じように描かれています。
続いて2についてですが、ここでは箱根駅伝での名物でした函嶺洞門と東赤谷連続洞門を参考にします。
まずは函嶺洞門の方から見てみましょう。

これは箱根湯本付近の地図ですが、Yumotoと重なる部分が塔ノ沢駅、右どなりの駅が箱根湯本駅で、函嶺洞門はこの区間の箱根登山鉄道に対して川を挟んで向かい側の赤い道にあるはずなのですが、特に表記はありませんでした。
また他にも兵庫県にある与位の洞門も特に情報を書き込んだ様子がありませんでした。

一方で東赤谷連続洞門はどうでしょうか。

画像中央の点線部分がトンネル区間のはず…。

「連続」の名の通り本当は洞門が複数設置されていますが、一本のトンネルとして表記されています。
その際に洞門出ない区間も洞門内として描かれています。
…どうやらこの地図にはいい加減なところがあるような気がしてきました。

これらの中で推測出来る流れとしては、

1.三本あった旧線の隧道が廃止され、真鶴トンネルが使用されるという情報は入っていた。
2.しかし新線の形について情報の参照を行うことはなかった。

という感じでしょうか。
個人的にはレッドアトラスの本を読んでからこれらの地図はいたる所にて入念な調査を行い、そのもとで作成されたというイメージがありましたが、戦略的に重要でないところは適度に手を抜いていたのかもしれません。

最後に根府川駅のトンネルに突っ込んでいるように見える事件に振り返ってみます。

(国土地理院地図より)
まず新地図について、根府川駅の北側のトンネルの終点から駅を経由して次のトンネルに入るまでの距離を計測してみると、大凡1.5kmであることがわかります。(北側の小さなトンネルは線形上ソ連地図では省略されており、そのため長さを加算しています。)次に問題のソ連地図の方を見てみます。


やはりトンネルの中にあるように見えるのですが、駅北側の点線の終点にはトンネルの出入り口の横線(根府川駅のすぐ南のほうではハッキリと描かれています)が入っていないことが分かると思います。また駅のすぐ南には川が流れており、よく見ると橋の表記が確認できます。もしかしたら橋の表記をするために線が途切れてしまったのではないかということで、北側のトンネルの入り口表記が描かれたのところから南側の橋を越えた最初の点線のところまで(拡大してみるとトンネルの入り口表記が出ていました。)の距離を出してみると…。

1.5km代の結果が出てきました。つまり根府川駅がトンネルに突っ込んでいる描かれ方はしていないということが分かりました。
少なくともこれについては筆者の疑問は間違っていたということが分かりました。


 というわけでこの真鶴地図のシリーズは終わりとなります。とんだ茶番になってしまいすいません。しかしこれで懲りたと言うわけではありません。またこの地図を元に旅行計画を立ててみようと思っています。宜しければまたその時にお付き合い頂ければ幸いです。
それではまた次回お会いしましょう。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
【参考サイト】
今昔マップ URL:http://ktgis.net/kjmapw/index.html
国土地理院 地理院地図 URL:https://maps.gsi.go.jp/

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